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マーケティング2026.09.2111 min read

認知施策、AIには向けていますか

BtoBブランディングの「人向け×AI向け」2軸——弥生とGensparkの取り組みから読む

この記事で分かること

  • 購買プロセスの入り口が「検索・CM」から「AI」に変わり、BtoBの認知施策が「人向け」と「AI向け」の2軸に分かれる理由
  • 弥生とGensparkが実際に進めている施策(AI検索対策・口コミサイトの強化・テレビCM・データの可視化)
  • AI時代でも変わらないブランドの核(弥生=税理士ネットワークと人のサポート、Genspark=進化し続けるプロダクト)
  • 「AIでアウトプットが似る」問題への対処(記憶と一次情報)
  • BtoBマーケターが明日から取れる3つのアクション

01購買行動が変わった——AIで情報収集する時代

お客さまが御社を知る最初の場所——それを、検索エンジンやテレビCMだと決めつけていませんか。私は、その前提が静かに崩れていると考えています。

BtoBの購買行動は、「検索やCMで知る」から「AIで情報収集する」へ変わっています。2026年9月9日に開催されたイベント「AI時代のBtoBブランディング戦略とマーケター施策」で、弥生のマーケティング担当・西村氏は、多くの方がAIでまず情報収集を行い、94%程度がAIを活用しており、それが購買判断にかなり寄与していると説明しました。

弥生は、もともと認知率の高い企業でした。昔はテレビCMを打ち、店頭でソフトを販売していた時期もあり、ブランドの認知は強固でした。しかしAIからの認知では、インターネット黎明期からオンライン市場を持ち、クラウドベースで事業を始めていた競合が強く、弥生は出遅れたと西村氏は振り返ります。

そこで弥生は、AIからの認知を得る施策(口コミサイトの強化やAI検索対策)を開始しました。その結果、ChatGPT経由の登録数・製品購入数が約2倍に伸びたといいます。西村氏は、人からの認知に加えて、AIからの認知も伸ばしていく必要があると考えていると話します。これがBtoBブランディングの新しい前提だと私は見ています。

02マーケティングが「丸裸」になった

対談でGensparkのマーケティング担当・野村氏は、AIによってマーケティングが「丸裸になった」と表現しました。個別の施策のデータはあっても、ツール同士をつないで「いま何が起きているか」を見ることが難しかったのが、AIによって可視化できるようになった、という意味です。

従来、テレビCMの結果、ユーザーの満足度調査、SNS広告、サイトへの流入など、ツールの粒度が上がるほどデータをつなぎ合わせるのは困難でした。Gensparkは2026年7月、誰でも簡単にデータをつないでダッシュボードを作れる「エージェントベース」の機能を導入しています。3か月に1回程度、テレビCM・満足度調査(Gensparkを知ったきっかけや導入理由を含む)・広告レポート・インフルエンサー施策・SNS広告・サイト流入をすべてつなぎ合わせて、何が起きていて何がうまくいっているのかを分析しているといいます。

具体的な変化は2つあります。

ひとつは、コーディングができない担当者でも、データの集計・分析を自動化できるようになったことです。「分析して」と指示するだけで、プログラムを自動生成して分析データを作ってくれる機能を活用しています。

もうひとつは、ダッシュボードを見に行くのではなく、AIに質問するスタイルに変わったことです。「いま何が起きているの」「今週の数字はどうなっているの」と聞けば、AIが最新のデータを取得して回答します。ダッシュボードは自動で更新されるため、いつでも最新の情報で、精度の高い意思決定ができるようになった、と野村氏は説明します。

03認知施策の2軸化「人向け×AI向け」

弥生とGensparkは、方向性は異なるものの、認知施策を「人向け」と「AI向け」の2軸で進めています。人の記憶に働きかける施策と、AIに正しく理解させる施策を分けて作る、という考え方です。

弥生:AIへの対策と、古いイメージを壊すテレビCM。弥生は口コミサイトの強化やAI検索対策を進めると同時に、アンケートで「弥生がクラウド製品を提供していることを知らなかった」という層が多いことも把握していました。そこで、新しいイメージを植え付け、古いイメージを壊すために、あえてAIでクリエイティブをほぼ全編制作したテレビCMを展開しました(テレビCMの全編AI制作はまだ少数派です)。放送した地域では獲得数がしっかり増加したといいます(西村氏)。人とAI、それぞれに対して認知を作っていく活動が今後は重要になる、と弥生は考えています。

Genspark:1機能に絞ったテレビCM。Gensparkは口コミ中心にプロダクトを成長させてきたため、認知が足りないことが課題でした。2026年4月ごろから、俳優の松坂桃李さんを起用したテレビCMを放映しています。このCMは「AIスライド」という1機能のみにフォーカスし、ビフォーアフターを見せるクリエイティブにしました。理由について野村氏は、市場が「AIワークスペースで本当にそんなことができるのか」と懐疑的だった時期に、「いい感じのスライドができる」ことは間違いなく約束でき、信頼を醸成できるポイントだったと説明します。他の機能は一切アピールしないCMにしたのです。

両社に共通するのは、ターゲットの実像から発想していることです。弥生は地方の中小企業を、Gensparkはある程度AIを使うユーザーを見ています。手段は違っても、お客さまにとっての一番の価値は何かを考える視点を共有している、と両者は対談で語っています。この「価値から逆算する視点」こそ、2軸化という手段の背後にある本質だと私は見ています。

04AI時代でも変わらないブランドの核

AIで施策の手法は変わっても、ブランドの核は変わりません。弥生は「税理士ネットワークと人のサポート」、Gensparkは「進化し続けるプロダクト」を、それぞれ自社のブランド価値の核に据えています。

弥生:パートナーネットワークと、人の安心感。弥生の主戦場は中小企業の会計領域です。企業にとって税理士は重要なパートナーであり、税理士から「使いやすいソフト」「監査しやすいソフト」と評価されることが大きな価値になっています。西村氏は、このネットワークは新興のクラウド会計ソフト各社が猛追しても、なかなか覆らない差別化ポイントだと話します。機能の差別化ではなく、長年ビジネスを支えてきた実績とパートナーのネットワークに注力する方針です。

もうひとつが「人の安心感」です。弥生が顧客に実施したアンケートでは、サポートを人の手で受けることを希望する人が6割以上で、AIによるサポートを希望する人はまだ少数でした。中小企業向け会計ソフトの分野で最大規模のカスタマーサポートチームも、この安心感の裏付けです。一方で、確定申告の時期だけ電話対応が集中するボリューム変動にはAI(チャットボットなど)を活用しており、「最後は人に相談できる安心感を保ちつつ、対応量をAIでコントロールする」設計を目指しています。

Genspark:進化し続けるプロダクト自体がブランド。Gensparkは「絶えず進化し続けるプロダクトがあること自体がブランド価値」と定義します。歴史の長さや単一の機能で覚えてもらうのではなく、新しいAI技術が登場するたびに、それを誰でも使える形にしてプロダクトを改善し続ける。その結果として「Gensparkさえ使っていれば最先端のAIで仕事ができる」という安心感・信頼感の顧客価値につながる、という考え方です(野村氏)。

この考え方は、開発プロセスにも現れています。Gensparkはローンチ時点では100点を目指さず、ユーザーのフィードバックを聞きながら改善するスタイルです。メール機能(GenMail)のフィードバックを送るユーザーだけで、グローバルに約450人が参加するチームがあります。ユーザーの声(バグなのか・追加の情報が必要なのか・機能の要望なのか)をカスタマーサポートのエージェントが分析し、開発エージェントに共有して改善し、完了をユーザーに伝える——このフィードバックループをAIが支えています。

05「アウトプットが似る」問題は記憶で解消する

AIでコンテンツを大量生産できる時代、クリエイティブやコンテンツが標準化・類似する懸念があります。Gensparkはこの「アウトプットが似る」問題について、記憶によって解消されつつある、と見ています。

Gensparkが提供するSecond Brain(メモリー機能)は、ユーザーが日々どんな業務を行っているか(メール・プレゼン資料・打ち合わせなど)をAIが記憶します。その記憶を踏まえてアウトプットすることで、その人・その組織ならではの成果物になります。さらに、アウトプットした結果がデータとして可視化され、打ち手の解像度が上がります。このサイクルが回るほど、似たような成果物にはならない——これが「コモディティ化はなくなりつつある」とGensparkが考える理由です(野村氏)。

マーケター視点では、この問題は「一次情報」の議論と重なります。AIはオンライン上に存在しない情報は提示できません。自社の顧客の声・パートナーの声といった一次情報を自社で蓄積しているかどうかが、AI時代の差別化の源泉になります(この点は次章のアクション②で詳しく扱います)。

06BtoBマーケターが取るべき3つのアクション

対談の後半では、登壇者2人が「明日から取れるアクション」を具体的に示しました。整理すると、次の3つになります。

アクション①:AIの回答で自社が選ばれるかを定点計測する(弥生)。AIに質問すると、AIは3つ前後の候補(回答)を示します。弥生の場合、この候補(トップ3)にはほぼ必ず入っているものの、1番目(1位)に来ないと、注目を集められず獲得につながりにくいといいます。そこで弥生は、「トップ3に入っているか」と「1位を取れているか」の両方のスコアを定点で計測しています。さらに、エンジンごと(Google・YouTubeなど)に好んで読む情報が異なるため、どのエンジンでどれだけ露出できているかを確認し、「YouTube経由が多ければYouTube施策を強化する」といったアクションにつなげています。重要キーワードはSEOと近い観点で設定し、順位が上がった先に獲得数までつながっているかを追跡するサイクルを回している、と西村氏は説明します。

アクション②:一次情報(顧客の声)を自社で蓄積し、入り口と出口の判断は人が担う(弥生)。AIがいくら強力でも、オンライン上にない一次情報は提示できません。差別化の起点になる顧客の生の声・パートナーの声を、自社でしっかり持っているかが問われます。一次情報を集める入り口の設計と、AIが出した複数案から最終的に何を選ぶかという出口の判断は人が担う——この入り口と出口を強化することが、AI時代にマーケティングチームしかできない仕事だと弥生は考えています。

アクション③:実行にリソースを回す(Genspark)。野村氏は、「AIに仕事を奪われる」という捉え方の代わりに、「自分がAIという実行・分析の動力を扱える」と捉えることを提案します。仮説を立てる・分析する・振り返る作業をAIと一緒に進められれば、実行の価値が高まります。だからこそ、実行に使うリソース(頭・時間・お金)をどれだけ確保できるかが、人の役割として重要になる、というのです。また、AIの能力は1週間単位でも変わっているため、同じ指示文を使い続けるのではなく、聞き方を変えて引き出し方を学ぶことも提唱しています。この考え方は、本シリーズの『Genspark Index』の回で見た「委任の深さ」(参照→生成→自動化→自律委任)と同じ方向を向いています。

加えて、弥生とGensparkの両社が口をそろえたのが「人との対話」と「トライアンドエラー」です。弥生はフルリモートワークを認めていたものの、AI時代にこそ人が話す場をあえて作り、チームで結果をどう判断するかを話し合うことを強化しています(出てきた結果に対してどう判断するかを考え、そのためにオフィスに来る・人が話す場を作る)。Gensparkも、人と人が話すことで新しいことが生まれ、意思決定ができ、解像度が上がるとし、AIは時間のかかる業務を短縮・自動化する手段として位置づけています。また弥生は、AIを活用した新しい業務フローやプロセスを作り、テスト→失敗→選抜をチームで繰り返す「トライアンドエラー」が、AI時代のものづくりで効果を出していると話しました。

07まとめ

冒頭の問いに戻ります。認知施策、AIには向けていますか。

BtoBブランディングは、「AIから」と「人から」の2軸で作る時代に入っています。AIには正しく理解させる施策(AI検索対策・口コミサイト・AI回答での露出の計測)を、人には記憶を更新し感情に届ける施策(テレビCM・人のサポート)を、それぞれ設計する必要があります。

そのうえで、ブランドの核(弥生=税理士ネットワークと人のサポート、Genspark=進化し続けるプロダクト)はAI時代も変わりません。差別化の源泉は、自社の一次情報と、AIが解決できない「入り口と出口」の判断、そして実行に回すリソースにあります。

明日からできることは3つです。①AIの回答で自社が選ばれるか(トップ3入り・1位獲得)を定点計測する、②顧客の声を一次情報として自社で蓄積する、③実行にリソースを回しながら、人との対話とトライアンドエラーを繰り返す。

この記事を読んだあと、御社がAIの回答でどう扱われているか——トップ3に入っているか、1位を取れているか——を一度定点で確認していただけたら、書いた意味があります。

08FAQ

Q1. AIからの認知施策は、どこから始めればよいですか。

弥生の事例では、口コミサイトの強化とAI検索対策から始め、ChatGPT経由の登録数が約2倍になりました。まず自社がAIの回答でどのように扱われているか(候補に入っているか・どのエンジンで露出しているか)を確認し、対策を打つのが現実的です。

Q2. AI時代に、テレビCMのような従来型の施策はまだ有効ですか。

有効です。弥生はAIでほぼ全編制作したテレビCMで、放送地域の獲得数を増やしました。Gensparkも、1機能(AIスライド)に絞ったテレビCMで信頼を醸成する狙いでした。人向けの認知は依然として重要ですが、クリエイティブの作り方と効果測定の方法は変わりつつあります。

Q3. 「AIでアウトプットが似る」問題には、どう対処すればよいですか。

2つの対処があります。1つは、自社・担当者の文脈をAIに記憶させて(Second Brainのようなメモリー機能)個別化されたアウトプットを作ること。もう1つは、顧客の声などオンラインにない一次情報を自社で蓄積することです。Gensparkは、この2つによりコモディティ化は起こりにくくなっている、と見ています。

Q4. BtoBマーケターが明日からできることは何ですか。

3つのアクションのいずれかから始められます。①AIの回答で自社が選ばれるか(トップ3入り・1位獲得)の定点計測、②顧客の声の一次情報の蓄積、③実行にリソースを回す(AIで作業を短縮し、人との対話とトライアンドエラーに時間を使う)、です。

※本記事は、2026年9月9日に開催されたイベント「AI時代のBtoBブランディング戦略とマーケター施策」での対談(弥生・西村氏/Genspark・野村氏)の内容を記事化したものです。記載されている数値・事例は、すべて登壇者の発言によるものです。発言の引用は、トランスクリプト(音声認識テキスト)の語句と一致する短い語句のみを引用符で示しています。

Gensparkについて

本記事の論点(「AIから」と「人から」の2軸・データの可視化と一次情報・実行へのリソース配分)は、ツールの選定より前に決めておく事項です。AI時代のマーケティングは、施策の作り方と測り方を先に設計し、そのうえで基盤を選ぶ順序が重要になります。

そのうえで基盤側に求められるのは、業務ごとに構成を選べること、社内の情報に接続できること、企業として説明できるガバナンスが揃っていることです。Gensparkは70以上の最先端LLMを横断的に活用できる法人向けAIプラットフォームとして、Workspaceでの成果物作成(リサーチ・スライド・ドキュメント・シートなど)、Salesforce・Google Workspace・Microsoft 365との連携、Enterpriseプランでの権限設定とガバナンス機能を提供しています。本記事の対談で取り上げられたデータの可視化・分析も、Workspaceでの業務のひとつです。Genspark GenTeamは、AIエージェントと人が共有グループチャットで一緒に働くAIチームワークスペースです。

どの業務をAIに委ねて実行の時間を作るか、どの範囲まで権限を委譲するかは、本記事の2軸の枠組みで先に決める事項です。GensparkのWorkspaceはリサーチから成果物までを一つの環境で扱い、連携機能で社内の情報を業務に接続できますが、委任の範囲と実行の設計は、本記事の診断で決める範囲です。

自社の要件に照らした実現可否は、既存システムと社内規程を前提に個別の検討が必要です。カスタム導入、契約条件、セキュリティ要件については営業担当にご相談ください。

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