ヒューマンホールディングス株式会社は、教育を中核に人材、介護、保育、IT、美容、スポーツと多岐にわたる事業を展開する持株会社です。同グループでは、人手不足への「生存戦略」として、AI活用を経営主導で推進しています。導入の経緯と現在の活用状況を説明しているのは、野村 洋平氏(ヒューマンホールディングス株式会社 ヒューマンAI研究所 所長)と軽部 一陽氏(同研究所エバンジェリスト)です。1985年の創業を経て2002年に設立され、東京証券取引所スタンダード市場に上場しています(証券コード2415)。連結従業員数は4,740名、連結売上高は1,025億円(いずれも2026年3月末・2026年3月期、同社公表)です。

Key Points
  • 人手不足を「生存戦略」の課題と位置づけ、AIを事業構造の変革に使う視点
  • 経営主導で10分野・約60種類の業務に広げるための組織的な推進の作り方
  • 戦略立案・BCP・データ抽出・形式変換——日常工程のAI化が現場のストレスを減らす
01導入前の課題

深刻化する人材不足への対応

導入の背景にあったのは、日本の労働人口減少に対する強い危機感でした。

野村 洋平氏(ヒューマンホールディングス株式会社)
「必ず人手不足になるというところは強い課題感を持っています。それに対応する事業の変革をしていかないと社会の要請に応え続けることは難しいと捉えています。」

人材サービス・教育・介護といった事業はいずれも人が担う部分が大きく、人員を確保できない環境での事業運営は、これまでの延長線上では成立しません。同社は、人手不足に対応する事業構造への変革と、コスト削減の両方を迫られていました。

現場にも課題がありました。既存の業務を回しながら、上司から急に依頼される仕事に応えることが、日常的なストレスになっていたのです。こうした状況を受けて、同社はAIの活用を検討し始めます。

02導入の決め手

「AI営業マン」というアイデア

導入のきっかけは、コスト削減の手段を模索するなかで生まれた「AI営業マン」というアイデアでした。AIに営業担当のような役割を与え、人手に頼らず業務を回すことができないか、という発想です。

このアイデアを後押ししたのは、経営層の認識でした。同社の経営層は、人口減少による人手不足が必ず到来するとの見立てのもと、AIを活用した事業変革が欠かせないという課題意識を常々強く持っているといいます。単なる業務効率化のツールではなく、事業の構造そのものを変える手段としてAIを位置づけ、経営の主導で導入が進められました。

03導入プロセス

10分野・約60種類の業務へ広がる

現在、同グループでは10の分野・約60種類の業務でGensparkが活用され、具体的な成果を出しています。同社の主な活用は、次の4つです。

戦略立案の素案作成

ITの中期計画やAI活用戦略について、素案レベルのものはわずか数分で作成できるようになりました。これまで時間のかかっていた企画・計画づくりの初期段階が、大幅に短縮されています。

事業継続計画(BCP)の作成

災害などに備える事業継続計画についても、短時間で作成できただけでなく、その中身は「本当にプロフェッショナルな品質」だったと、同社は説明しています。

データ抽出

社内ヘルプデスクサイトに蓄積された大量のHTMLファイルから、必要なテキストを一発で抽出します。AIアバター作成に必要な学習データの抽出にも、同じ手法が使われています。

形式変換

スプレッドシートに記入した表形式のデータを、マークダウン形式に整理してテキストとして出力するといった作業にも活用されています。

実際に使っている場面について、2名は次のように話します。

野村 洋平氏(ヒューマンホールディングス株式会社 ヒューマンAI研究所 所長)
「ITの中期計画やAI活用戦略は、素案レベルのものであれば、わずか数分で作成できました」
軽部 一陽氏(同研究所エバンジェリスト)
「社内のヘルプデスクサイトでは、大量のHTMLファイルがありまして、そこからGensparkを使って一発で抽出するということができました」
「スプレッドシートに記入した表形式のデータに関しても、マークダウン形式で整理してテキストとして出力するといったようなことにも使っています」
04成果

「3人分」という言葉で語られた変化

同社の成果を象徴するのが、「Gensparkは1つで3人分は軽く働いてくれます」という言葉です。ただし、これは計測された数値ではなく、発言で示された表現です(同社が測定した業務成果の数値ではありません)。

  • 10分野Gensparkが活用されている領域の数
  • 60種類具体的な成果が出ている業務の種類
  • 数分IT中期計画・AI活用戦略の素案作成時間

数値化された効果ではなく、「3人分の働き」「数分で素案」「ストレス軽減」といった言葉で成果が示されているのが、この事例の特徴です。急な依頼への対応スピードが上がったことで、周囲から「最近、仕事が楽しそうですね」と言われるようになったといいます。

05他社が学べる3つのポイント

AIを「事業構造の変革」の手段にする

ヒューマンホールディングスの事例から、人手不足やコスト増に直面する他社が学べる点は3つあります。

ポイント1:AIは業務効率化ではなく「事業構造の変革」の手段として位置づける

同社は、AIを省人化や効率化のツールとしてではなく、人手不足という構造的な課題への回答として位置づけました。「3人分の働き」という言葉は、人員を増やせない環境での生存戦略としてのAI活用を示しています。

ポイント2:経営層の主導が、活用を全社の規模に広げる

素案作成・BCP・データ抽出・形式変換という10分野・約60種類への展開は、経営層が「常々意識している」ほどの強い推進力のうえに成り立っています。担当者任せにせず、経営の課題としてAI活用を押し上げることが、広がりの条件になります。

ポイント3:素案づくりとデータ整理という「地味な工程」が、現場のストレスを減らす

素案を数分で作る、大量のファイルから必要な情報を一発で抽出する、表データを扱いやすい形式に変える。派手な自動化ではなく、こうした日常工程のAI化が、「上司の急な依頼」への対応力を高め、現場のストレス軽減につながっていました。

※本事例は2026年9月時点の情報です。